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地震直後のフェアにあえて出店…「輪島塗忘れさせない」家の片付けは後回し 漆器店の店主に17年前の教訓

今年2月に都内で開かれた石川の伝統工芸フェア。

輪島塗を扱う店は出店中止の声もある中、倒壊した建物から商品をかき集めあえて出店しました。

その理由は17年前の教訓でした。

今年2月、都内で開かれた「石川の伝統工芸フェア」。

多くの客でにぎわいました。

坂口さん:
「その薄さが普通のと全然違います」
「はい、そちらも5枚セットになります」
「全面、金になります」
客:
「わぁ~本当だ」

自宅が被災しながらも出店した男性がいます。

坂口さん:
「このタイミングですね。これを逃したら多分無いと思われる」

その思いに迫りました。

坂口漆器店 坂口さん:
「本当にここでも漆関係の職人さんたちがいた家も何軒も潰れて」

輪島市鳳至町(ふげしまち)に店舗と工房を構える坂口彰緒(さかぐち・あきお)さん50歳。

坂口さん:
「中塗りを通していた部屋で生きている商品を出しつつ、棚なんかもガチャガチャ。上からも落ちて全部物が落ちて、棚をしっかりしないといけないんですが、そこまでは出来ないので」

元々は職人で、いまは輪島塗の販売を主軸とする坂口さん。

家の片付けもそこそこに、被害がない作品を集めていました。

「いしかわ伝統工芸フェア」に出店するためです。

石川が誇る伝統工芸を都内でアピールするこのイベント。

主催者側は、能登半島地震直後の開催だったため出店を見合わせたほうが良いのでは…と提案がありました。

しかし、坂口さんはあえて出店することを決めました。

その理由は…

坂口さん:
「2007年の能登半島地震の時に片付け優先して販売を後にしたら、輪島塗が忘れ去られたみたいな過去があったので、今回は工芸フェアをこのままやってくださいと進めた」

坂口さん:
「彼も職人になります」

坂口漆器店の作品も手掛ける塗師(ぬし)の前田最嗣(まえだ・あつし)さんです。

前田さんの工房も大きな被害を受けていました。

坂口さん:
「ここで下地をお願いしていた」

大事な道具もどこに行ったか分からないほどの被害。

坂口さんはここでも、無事だった作品を探します。

坂口さん:
「これ出すし」

前田さん:
「お願いします」
「結局、なんにしても中々動けない中で、今回こういう風に(輪島塗を)出してもらえるのはありがたい」

坂口さん:
「この辺も漆屋さん辞めるって言ってるし、ちょっとこの後は厳しいって言われているんで…」
「とりあえずはこの先、どうしたって皆さん現金が必要になってくるんで、今あるものを現金化しないと動けないので」

坂口さんは救出した作品、およそ200点とともに東京へむかいます。

会場は被災地を支援しようと多くの客で賑わっていました。

坂口漆器店の様子はというと…

坂口さん:
「すみません、今バタバタになってて」

強さと美しさを兼ね備えた輪島塗。

124もの工程から出来上がった商品の魅力をお客さんに伝えます。

坂口さん:
「この商品(箸)は、1人の職人さんが生地を仕入れているので、自分で手塗して作ってるから耐久性が全然違う」

客:
「すごくキレイでツルツルでご飯食べるの楽しくなるかなと思って選びました」
「素晴らしい技術の高さですよね。デザインも素晴らしいし」
「今回復興ということもあって、主人と来ました」

中には50万円近い作品を購入する人も…

客:
「海外の方への贈り物を探していて、海外からも皆さん心配されていたので。輪島の物でプレゼント出来たら喜ぶかなと思って」

お客さんはひっきりなしに店先へ。

すると坂口さんが突如、駆け足に…売り切れた商品の補充です。

坂口さん:
「こんなこと無いですよ。フェア始まって以来ですよ」

来場者は3日間で7万人以上。

自宅の片付けを放っておいてまで出店した理由がここにあります。

坂口さん:
「このタイミングですね、やっぱり。これを逃したら、チャンスは無いと思われるぐらい。すごくいいPRになったんじゃないかと」
「「頑張ってください」っていうのはありがたい言葉で皆さんから頂いています」
「輪島塗自体が人なんですよ。技術っていうのは。だから技術=人を大事に過ごしていかなきゃいけない」

全国各地で輪島塗を売り歩いていた坂口さん。

地震が発生しておよそ3カ月、ようやく家の片付けを始めました。

2007年の教訓をいかし、倒壊した建物から作品を探し出して出店したことは大成功。

しかし、いまは…

坂口さん:
「新潟と福岡に行ったんですがお客さんの頭の中から(地震が)消えてて。全体的な雰囲気として過去の話になっている状況が見られましたね」

完成するまで最低でも1年半はかかる輪島塗。

政府は今月、仮設工房を設置しました。

しかし坂口さんが仕事を依頼する職人は市外に避難を余儀なくされていて、まだ仕事ができる状態ではありません。

坂口さん:
「(仮設工房は)4軒ほどしか出来ないっていうのは聞いてますので、順次そういう物ができてくればまた違う動きになるんじゃないかなと。やっぱり受注も少しはありましたので制作を早くしないと納期に今度間に合わなくなるのでそこが不安」

いち早い復旧が輪島塗の伝統を途絶えさせないことにもつながります。

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