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【能登人を訪ねて】#57ラジオに復興の願い乗せ...輪島市町野町 山下祐介さん

能登で復興に向け前を向く人に話を聞く「能登人を訪ねて」。今回は地震と豪雨、二重被災からの復興を進める輪島市町野町で、北陸三県で初めての「ある試み」を始める男性です。

稲垣:
「輪島市町野町に来ています。奥能登豪雨から間もなく9カ月を迎えます。以前はこの川をふさぐように流木が流れ着いていたんですが、現在はその両側で護岸工事が進んでいます。そして、7月1日には能登半島地震から1年と半年を迎えます。この街に新たな動きが生まれます。以前このコーナーでお伝えした男性を中心に、この街になくてはならない『あること』を立ち上げるんです。」

今月3日、輪島市町野町金蔵。
山下さん:
「じゃ、やりますか。」

雨の中、田植え作業が始まりました。例年より1カ月遅れの田植えです。

稲垣:
「6月って今まで田植えしたことあるんですか?」
山下さん:
「過去に一回だけ、田植えがなかなか進まなくて6月2日、3日ぐらいで終わったことはあるんですけど。それ以来ですかね、6月に入って田植えをするって…」

町野町でコメ農家を営む、山下祐介さんです。

能登半島地震によって去年の作付けは例年の2割、2ヘクタール程に減りました。やっとの事で実を付けた稲も、収穫途中に襲った奥能登豪雨で半分を刈り取ることが出来ませんでした。

山下さん:
「さすがにショックっていうのが正直なところですよね。いやー、結果こうなるんだったら何のためにっていう。経費だけかけて結果収入がゼロになるんだったら、本当に今年1年、なんで田植えしたんだろうって思いたくないけど思ってしまう」

ため池や用水路の修復の目途が立たないまま春を迎えました。それでも自分の育てた米を待つ人がいる。そんな思いで、例年の1割未満ながら何とか田植えにこぎ着けることが出来ました。

山下さん:
「地震もあって豪雨もあって、米価もいい年に出すものがないというのは辛いかなという所はありますけど、一人でも二人でも、今年の新米を渡せそうなので、そこはちょっとホッとできる材料かなと思います」

農業を営むかたわら、地元、町野町の復興に向け活動を続ける山下さん。

準備しているのが…

山下さん:
「どのタイミングに一番聞いてもらえそうかと考えた時に、学校がウンと言ってくれればですけど、学校と連携を掛けようと思えば給食時間に流すとかは可能性としてはあると思う」

ラジオ局です。山下さん達、町野の住民が自分たちの手で運営を行います。名付けて「まちのラジオ」

山下さん:
「復旧・復興に向けて取り組んでいく中で、『正しい情報が広く早く伝わらない』っていうのをずっと課題として感じてたんですね。地震があって豪雨の時もそうでしたけれども、一時的ですけれどもやはり情報が全然入ってこないという経験もしてますし…」

去年、地震と豪雨で二度の孤立を経験した町野町。情報が得られないことの不安を身にしみて感じました。

山下さん:
「とにかく高齢の方が多い地域において、何が一番有効なのかって考えた時に、よくよく考えると、『平時から高齢の人、畑でラジオ聞いてたな』とかそういうのがあったので、ラジオだったら老若男女問わず聞いてくれるのかなと…」

試験放送:
「2月23日、朝10時になりました。町野町の皆さん、おはようございまーす!町野町臨時災害放送局、実験放送!」

今年2月の試験放送。「臨時災害放送局」とは、災害発生時にライフラインの状況などをきめ細かく伝えるため、自治体が開設する、一時的なラジオ局です。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに制度化され、東日本大震災では26局開設されました。この日は一日限りの「お試し放送」でしたが、大きな反響を呼びました。

山下さん:
「まずは一日お試しでって言って放送しているのに『次はいつですか?』というお問い合わせが来たり…『これ、ぜひこの後も継続してやってもらえたらすごく助かるんだけど』『いや楽しかったよ』っていう…本当にぜひっていう声が圧倒的に多かったので、それでやるぞっていう風になりましたよね」

臨時災害放送局の開局は、北陸三県でも初めての事。ただ、スタッフの中で放送に携わった経験のある人は誰もいません。

そこで…(

「5月19日月曜日、12時31分を回っています。只今開局準備中、まちのラジオ『まちのWA』」

メンバーは先月、宮城県女川町を1週間にわたり訪ねました。女川町では、東日本大震災で5年間にわたり、臨時災害放送局を運営した実績があるからです。今回、訪ねたのは、当時のメンバーから、放送機器の扱い方や番組の作り方を学ぶためです。旧女川さいがいFM 大嶋さん:
「原稿を読み間違えるのはいい。一回言い直してもらえればいいんだけど、急に不安になって急に声が小っちゃくなったりとか…そこは堂々と読み直しすればいい」
旧女川さいがいFM 宮里さん:
「一人でずっと喋ってるとすごいダラダラっと間延びした感じの放送になっちゃうので、誰かがパスを出してあげる、インタビュー形式になった方が聞いている人も
気持ちよく聞けるのかなって…」

厳しくも愛のある指導。それは、この放送局を運営していくことの難しさを誰よりも分かっているからです。

旧女川さいがいFM 松木代表:
「新たにラジオ局をやる、尚且つ災害が起こってから避難所が解散しているという状況であれば、成果を出すというのはすごく難しい。町民の人たち1人でも多く一緒にやってもらう。ただ聞いてもらうだけじゃなくて、一緒にやってもらう。どれぐらい輪島の人たちに認められて、みんなを引っ張っていけるかにかかっているので…そこは僕らの次元よりも成果を生むかもしれない。何か夢あるでしょ」

山下さん:
「もう色んな人から『応援しています』『頑張ってください』という声を頂くので、その期待に応えられるようにしっかりとした放送、町野の人にとって役に立つ放送を
実現していきたいなと思いますんで…開局に向けて走るのみっていう感じですね」

多くの人の支えを得て始まる「まちのラジオ」。今月下旬の開局を目指しています。

山下さん:
「ちょうど、いま予定としてはこの間に(放送ブースを)何とか設置できないかということで…とにかく急ピッチでいま開局に向けて進めているので、まずはプレハブのスタジオですけども、何とかそれで放送を始めて、皆さんにも是非放送にも参加をしてほしいですし、見に来てほしいなと思って準備を進めています。楽しみにして頂ければなと思います」

メンバーの皆さんはそれぞれ仕事を持ちながらの開局準備で大変な毎日を過ごしています。こうした中で開催された宮城県女川町での研修合宿。6人のメンバーはホームステイをしながら研修に臨み、夜には地元の皆さんが歓迎会を開くなど、温かくもてなしてもらったそうです。

山下さんは「第二のふるさとってこういうことなんだということが身にしみて分かった。女川の皆さんのためにもまちのラジオを成功させたい」と話していました。まちのラジオは今月下旬の開局を目指しています。カンパや支援などについてはこちらをご覧ください。能登人を訪ねてでは、まちのラジオの開局までの様子をまたお伝えいたします。

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