<受賞理由>
昨年、発表された受賞者らによる『脳溝(大脳表面のシワの陥凹部分)が脳からの老廃物の除去効率を高める』という学術上の発見は、認知症の予防・治療につながることから医学的にも大きな意義と価値をもつと評価されている。
1965年に金沢市で生まれた受賞者は1998年、京都大学大学院博士課程修了後、同大学研究所で故・笹井芳樹教授の下、再生医学の研究に取り組み、胚性幹細胞からドーパミン神経細胞と網膜色素上皮細胞を試験管内で分化誘導することに世界で初めて成功した。この研究成果は、現在発展しているiPS細胞を用いた再生医療の端緒となった。
その後、米国デューク大学留学、東京大学での研究室主宰を経て、2013年、金沢大学に教授として着任した。ヒトに近い発達した脳の研究を推進するためにイタチ科の動物フェレットに着目し、脳の働きに重要な脳回(大脳表面のシワの隆起部分)に関して、その形成と進化を司るシグナル経路と遺伝子群、細胞種を世界に先駆けて突き止めた。
さらに出生と脳の発達に関する研究も推進し、神経伝達物質の一つセロトニンが出生による新生児の脳発達を制御していることを発見した。この成果は、早産による発達障害や精神疾患の発生機序の理解、ひいては治療法の創出にも結び付くものと期待されている。 |